東京高等裁判所 昭和41年(ネ)548号 判決
前記認定の事実関係からすれば、控訴人は利一のした引受偽造等の違法行為を直接分担したわけではなく、また利一や草野商店経理課員を利用して自己の意図を実現したものでもないから、控訴人を以て利一の引受偽造等の違法行為の共謀者ということはできない。思うに、利一が当初千蔵名義の引受偽造を始めるに当り、控訴人に対しその意向を告げたのは、右引受偽造の事実は草野商店に勤務する控訴人には直ちに知れるであろうから、控訴人からかかる事実が兄である千蔵に知れることを防止するためには、予め控訴人の了解を得ておくことが必要であると考えたからであると推認され、従つて控訴人が利一の右企図に反対の意向を表明し、千蔵に連絡するなどして右偽造を阻止する等の挙に出たならば、利一が千蔵名義の引受を偽造することは困難であつたであろうし、このことは控訴人自身も認識するところであつたことは看取するに難くはない。
そして控訴人が右に述べたような利一の偽造を阻止する措置に出ることは容易であつたと思われるに拘らず、控訴人はこれをしないまま相当期間利一の偽造等の違法行為を黙過しただけでなく、その間利一の命により千蔵名義の当座預金口座の開設手続やその後の入金手続等をして利一に対し協力的態度を示したことは、当時の利一に対し自己の違法行為が千蔵に知れることがないとの安心感を与えその引受偽造等の違法行為を容易ならしめたものであつて、すなわち控訴人は右利一の違法行為を幇助したものということができる。
しかしながら、本件において被控訴人が割引により損害を蒙つたと主張する本件各手形は、いずれも昭和三六年八月以降に利一によつて千蔵名義の引受を偽造の上振出されたものであることは前記認定のとおりであるところ、前記二の(五)ないし(七)に認定したところによれば、千蔵は草野商店における千蔵名義の引受偽造の事実を知り、昭和三六年四月頃草野商店の経理課員や控訴人を通じて利一に対し千蔵名義の引受偽造や千蔵名義の口座利用の中止方を申し入れているのであり利一は千蔵の右抗議により自己のなした右引受偽造等の事実が千蔵の気付くところとなり抗議して来たことを知りながら、敢てこれを無視し、その後も千蔵名義の引受偽造ある為替手形の振出を継続したのであつて、本件各手形は、かかる手形中草野商店が倒産する時点に近接して作成されたものであるというのである。そしてさきにも説明したとおり、控訴人の行為が昭和三二、三年頃以来の利一の引受偽造等を幇助した関係に立つ所以のものは、控訴人が利一の偽造行為を兄である千蔵に知らせなかつたばかりでなく、利一のために千蔵名義の当座預金口座の開設手続や同口座への入金手続をすることによつて利一に対し前記のごとき安心感を与え、その違法行為を容易ならしめたことにあるのであり、前記のとおり千蔵自身が利一の偽造行為に気付き、それに付いて利一に対し抗議を申込んだ以上、これにより右利一の安心感は失われたというべきであるから、その後になされた本件各手形における引受の偽造、行使及び詐欺行為に対し、控訴人はもはや幇助の関係に立つものではないと解するのが相当である。
(岸上 小野沢 大石)